蝋燭をつくるということ
〜 わたしの手から、あなたのもとへ 〜
わたしが蝋燭をつくっているときのこと。
これまでほとんど語ってきませんでした。
写真や言葉を通してお届けしているのは 火を灯して形を変えていく蝋燭の姿や その時に受け取った言葉たち。
完成したばかりの蝋燭の姿も ほんの少ししか表に出していません。
蝋燭をつくっている わたし自身についてはなおさらしない。
これまでの写真や言葉から
それぞれに抱いてくださっているイメージもあるようで。
そんなイメージを覆してしまうかもしれない。
そう思うと、少しドキドキしてしまいます。
でもいつもは あまりお話ししてこなかった 蝋燭をつくる時間について少し綴ってみようと思います。
始まりは、とても現実的
蝋燭をつくり始めるとき
最初に何があるのか。
実は、とっても現実的。
ご注文いただいている蝋燭の種類や本数。
少し先までのスケジュール。
それらを確認しながら
今日はどれから取りかかろうかな。
どの蝋燭を注ごうかな。
と考えています。
原料の蝋を溶かしながら
型のお手入れをしたり
それぞれに合わせた芯を用意したり。
蝋を注いでから固まり 型から外すまでには だいたい2日ほどかかります。
そして、 型から外してみるまでは どんな仕上がりになっているかわからない。
うまく仕上がったものもあれば
そうでないものもあります。
予定していた次の工程が 変わってしまうこともしばしば。
型から外した蝋燭を整えて
ひとつひとつ包み、箱に納める。
添えるメッセージや注意書きを用意して、 蝋燭によっては、その紙に蝋引きを施したり。 新しいメッセージを書き下ろしたり。
ひとつの蝋燭をお届けするまでには いくつもの工程があります。
合間に足りないものを用意したり 次の製作の準備をしたり。
そんなふうに、何日もかけて少しずつ出来上がっていきます。
ごめんね。
もっと神秘的な儀式をしていると 想像していたでしょうか(笑)
今のわたしを確かめる
製作を進めるためには 時間や工程を考えることも大切。
でも、それと同じくらい
わたしが大切にしていることがあります。
今のわたしの状態をちゃんと確認すること。
どんな気分かな。
何か引っ掛かっていることはないかな。
気持ちは乗っているかな。
いつも調子がいいわけではありません。
予定が詰まっていたり、
製作が間に合うかどうか焦ったり。
気持ちがどんよりとしている時もある。
なにかの出来事に気持ちが引っ張られていることもある。
いろいろあるよね。
頭では
今すぐ蝋燭を注いだ方がいいと
わかっているのに
どうにも気が向かないこともある。
そんなときは
無理に注ぐ工程を進めず
別の準備や掃除をすることもあります。
ときには、往復1時間ほどかけて
お気に入りの木に会いに行くことも。
そこで、しばらくぼーっと過ごす。
その時間があれば 製作を進められるのに。
そう思うこともあるけれど
これが結構、整うんです。
帰ってから作業を始めると
出かけていた時間がまるでなかったかのように
思っていた以上に進むこともあります。
時間が伸び縮みしているような。
もちろん、本当に時間が変わっているわけではないけれど そんな不思議な感覚を 蝋燭との時間の中で味わうことがあります。
蝋を注ぐ瞬間
製作を始めるときはこんなふうに いろいろなことを考えています。
けど。
実際に蝋を注ぐ瞬間は
なにもない。
言葉にするとそんな感覚に近いのかな。
わたし自身の身体を動かして
蝋を注いでいるのだけれど
その瞬間は 抜け殻のような パイプのような。
説明しようとすればするほど
言葉が違う方向へ行ってしまう気がします。
なにもない。
「ないものはない。」
わたしにはそれくらいしか言葉に表せれない。
鶴の機織り部屋
これまで製作場所を 見学したい取材をしたいという お話をいただいてもあまり気が進みませんでした。
昔話の 「鶴の恩返し」に出てくる 機織り部屋のようなものかもしれません。
以前、製作部屋に人を招いたことがあり。。。
その後、長いあいだ
蝋燭をつくることに気が向かなくなってしまった時期がありました。
どうしてつくれないんだろう。
やる気がないのかな。
そんなふうに悩んだこともありました。
振り返ってみると わたしにとって製作する場所は 思っていた以上に大切な空間だった。
蝋燭をつくることを
ご神事だと言い切りたいわけではなく。
何か特別な肩書きをそこに重ねたいわけでもない。
ただ、
蝋燭をつくるという時空間は、 わたしにとって神聖なことなんです。
見せたくないというより
そこには、そっとしておきたい部分がある。
知らなくてもいいことがあってもいい。
そんなふうに思っていただけると嬉しいな。
どうぞ行ってらっしゃい
いくつもの工程を経て ようやく出来上がった蝋燭。
ひとつひとつ包んで箱に納めて。
お客さまのもとへ送り出すときは、
「お役目、どうぞ行ってらっしゃい!」
そんな気持ちです。
あとは任せたよ。
何を任せたの?
と聞かれたら、それはわかりません(笑)
同じ形をした蝋燭でも
火を灯せばひとつひとつ違う姿へと変わっていきます。
どんな場所で
どんな人と
どんな時間を過ごすのかな。
それは、 わたしの知らないところで生まれていくこと。
蝋燭に添えたメッセージにもその役割があります。
だから送り出したあとのことを
わたしがすべて知っている必要はないと思っています。
わたしの手元で生まれた蝋燭が 誰かの暮らしの中へ迎えられていく。
そしてそこからまた違う時間が始まる。
そんな蝋燭たちをひとつひとつ、つくっています。


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