火と過ごす
〜灯す時間、灯さない時間 〜
「火を灯して、なにをしたらいいですか?」
そう尋ねられることがあります。
なんでもいいと思う。
ただ眺めていてもいいし 読書をしたり 日記を綴ったり。
誰かと談笑していても
ひとりで静かに過ごしていても。
火を灯したからといって
何か特別なことをしなくてもいいと思っています。
わたし自身 日々の暮らしの中でごく自然に蝋燭を灯しています。
暮らしの中の火
わたしが一番よく火を灯すのは 蝋燭を製作しているとき。
作業に集中している間も
そばで炎が揺れている。
なんだか見守ってくれているような感覚。
ふと目を向けると
さっきまでとは違う姿になっていて
あら、こんなふうになったの。
と思わずニヤリとすることも。
なんとなく空間が寂しく感じる日にも火を灯したくなります。
炎がひとつあるだけで
そこに誰かがいてくれるような。
ゆらゆらと揺れる炎が
呼吸しているようにも見えて
ひとりで過ごしていても
ひとりではないような気持ちになります。
火を灯す時間は
静かに座って
炎を見つめる時間ばかりでもない。
暮らしの中に火がある。
わたしにとっては
それが自然なことじゃないかなと。
何も起きない時間にも
火を灯していると
何か特別なことが起きるのでしょうか。
わたしの場合 何も起きないことの方がずっと多いです。
毎回何かが起きていたら 受け取るばかりで大変なことになってしまう(笑)
ただ炎を眺めている日もあれば ぼんやりと別のことを考えている日もあります。
ときには ずっと前の出来事や そのときに抱いた気持ちが ふっと浮かんでくることも。
今、どうしてこれを思い出したんだろう。
そう思っていたことが
ずいぶん後になって
別の出来事とつながることがあります。
点と点が、いつの間にか線になるように。
それが火との対話なのかもしれないです。
炎が
何かを教えてくれたというより
火と過ごしているあいだに
わたしの中で何かが結びついていく。
そんな感覚に近いのかな。
何も浮かばない日もある。
何かを感じようとしたり 答えを見つけようとしたりしなくてもいい。
ただ、火と過ごしている。
それだけの時間も、わたしは好き。
灯さない時間
蝋燭に火を灯さない日ももちろん、あります。
真新しい蝋燭を そのまま飾っていたり 以前に灯して形を変えた蝋燭を しばらく眺めていたり。
いつ灯そうかと特に決めようとしていないかな。
ある日、ふと目に留まる。
あ、今日はこの子かな。
そんなふうに、自然と手が伸びることがある。 それでいい。
毎日決まった時間に
灯さなくてもいいし
何かのために灯さなければ と思う必要もない。
蝋燭を灯していない時間にも 蝋燭はそこにあります。
わたしが
別のことに夢中になっている日も
その存在を忘れている日も。
そしてまたふと目に留まったときに新しい時間が始まる。
人との関係にも少し似ているのかもしれません。
ずっと意識していなくてもそこにある関係。
わたしにとって蝋燭は身近な存在。
形を変えて、また出会う
火を灯すと、 蝋燭は少しずつ形を変えていきます。
蝋が溶け流れ 思いがけない姿を見せてくれる。
火を消したあとも
その姿をそのまま残しておくことがあります。
ふと思い立って
蝋燭を置いた器をくるりと回してみる。
そうすると 今まで見えていなかった裏側に 思いがけない形を発見することも。
崩れた小さな欠片が
何かの姿に見えることだってあります。
あ、こんな子がいた!
そんな発見も楽しい。
形は変わっていないはずなのに
昨日とは違って見えることもあります。
蝋燭が変わっていく。
それを眺めているわたしも日々変わっている。
火が灯っていないあいだも
蝋燭との時間は
止まっているわけではないのかもしれません。
わたしにとって
火を灯して変容した蝋燭は
そのときに過ごしたわたしの結晶のようなもの。
そして、また火を灯すとそこから新しい姿へと変わっていきます。
最後の炎
蝋燭を灯し続けていると いつか最後の炎を迎えます。
その瞬間を見届けられることは実はそんなに多くない。
もう消えるかな、と眺めていると
すっと静かに消えることもあれば
残った蝋を吸い上げてもう一度炎が大きくなることもあります。
その姿に、思わず見入ってしまう。
最後まで、どんな姿を見せてくれるのだろう。
そんな気持ちで眺めています。
長い時間をともに過ごした蝋燭が 最後は自ら火を消してく。
形がなくなったとしても 一緒に過ごした時間までなくなるわけではない。
以前は灯して変容した蝋燭をほとんどすべて残していました。
けれど、引っ越しを機にそれらを手放しました。
今は、すべてを残しているわけではありません。
残しておきたいものもあれば手放すものもある。 その蝋燭と過ごした時間が なかったことになるわけではなから。
火を灯す日も灯さない日も。
ただ眺めている時間も
何かを思い出す時間も。
形を変えていく蝋燭と その日その日のわたしが出会う。
何をしたらいいのか。
きっと、決めなくてもいい。
今日のわたしが今日の火と過ごす。
そんな時間があってもいいと思います。


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